『田園の詩』NO.38 「本物のUターン」(1996.1.30)



 新聞の見出しに、年末には≪帰省ラッシュ始まる≫とあり、年始には≪Uターン客
で混雑≫とありました。

 田舎人である私は≪Uターン≫といえば、「田舎→都会→田舎」というパターンを
すぐに連想してしまうのですが、都会に住んでる人が、お正月を故郷で過ごし、また
都会に戻ることもUターンと表現することに一種新鮮な驚きを覚えました。

 さて、言葉による表現はいろいろ考え出されるもので、≪Jターン≫や≪Iターン≫
という使われ方もあるようです。Jターンとは、田舎に完全に帰ってしまわず、ちょっ
と手前の小都市まで戻って生活することをいいます。Iターンとは、都会から真っすぐ
に田舎にやって来ることだそうです。

 先日、田舎暮らしの取材で訪れた雑誌記者の方が、「Iターンの方々の暮らしぶり
は?…」などと、頻繁に≪Iターン≫を使われるので、「私も、Iターンという言葉は
知っていましたが、真っすぐにやって来た人を≪ターン≫というのは、ちょっと変で
すネ」といったら、「それもそうですネ」と相槌を打ってくれました。

 Uターンといえば、私の町に陶芸家が二人います。彼らは学校を出るなり、焼き物
の技術を身に付けるために、一人は備前に、もう一人は有田に出て行きました。
そして数年後、実家に戻り、窯を開き活動しています。

 私は、彼らのあり様こそ本物のUターンだと思います。「田舎→都会→田舎」と生
き方の上で、線が完全に繋がっているのです。

 それに比べ、仕事を求めて都会に出て行き、何かの事情で田舎に帰らざるを得なく
なり、また新たに仕事を探す…。これはUターンなどではなく、Iターンの往復だと
思います。


       
     文章と関係のない写真になりました。  お米の花です。すぐ散ります。
     私も今回は撮影のためじっくり見ることができました。   (2008.8.25写)


 私は、若者が一度田舎を出て都会で生活をすることは良いことだと思っています。
そして、将来田舎で暮らすための確固たる技術や自信を都会で身に付けて、繋がり
のある本当の意味でのUターンをしてほしいものです。    (住職・筆工)

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